2021年1月
熊本県八代市 TACやつしろ(レタス)
代表生産者 野田 成之さん(代表取締役社長)
産地だより 2021年1月
今回の産地だよりは、熊本県八代市でレタスを栽培している協力農家さんの野田 成之さんをレポートします。
熊本県八代市は、日本三大急流のひとつである球磨川の清流を資源に工業も盛んですが、広大な八代平野にあり、江戸時代以来の干拓によって広がった平野部では農業が盛んで、また、気候は1年を通して温暖なため、レタスを含めた野菜の供給産地として大きな可能性を秘めています。
今回は、野田さんにレタスのおいしさの秘密とこだわりについてお聞きしたいと思い、その八代市を伺いました。
八代城跡
TACやつしろさんを訪問する前に、八代市の観光名所である八代城跡をご紹介したいと思います。
“八代城は、元和5年(1619年)の地震により、麦島城が崩壊したため、熊本城主加藤忠広(清正の子)が幕府の許可を得て、家老の加藤正方に命じ、同6~8年にかけて球磨川河口北側の松江村に築城した平城です。
寛永9年(1632年)の加藤家の改易により熊本城主となった細川忠利の父忠興(三斎)が入城し、北の丸を居所として本丸に四男の立孝(立允)を居住させました。
正保2年(1645年)閏5月に立孝が、続いて12月に三斎が没したため、翌3年(1646年)家老松井(長岡)興長が入城し、以後は代々松井氏が在城しました。
落雷による焼失や明治維新後の取り壊しがあるも、本丸の石垣と内堀が残り、本丸跡に懐良親王をまつる八代宮が鎮座しています。
中世の古麓(ふるもと)城、安土桃山時代の麦島城、江戸時代の松江城(現八代城跡)と3つの時期に分かれる城跡が残り、2014年「八代城跡群」として、古麓城跡、麦島城跡と併せて国の史跡に指定されました。”
*八代市経済文化交流部観光・クルーズ振興課「きなっせやつしろ」より引用。
http://www.kinasse-yatsushiro.jp/spots/detail/1
球磨川(くまがわ)と農業の関係
球磨川(くまがわ)は、熊本県南部の人吉盆地を貫流し、川辺川をはじめとする支流を併せながら、八代平野に至り八代海(不知火海)に注ぐ一級河川で、球磨川水系の本流です。
球磨川は、熊本県内最大の川であり、最上川、富士川と並ぶ日本三大急流の一つで、水は“流域内の約14,000haにおよぶ耕地の農業用水や、八代平野の臨海工業地帯で紙・パルプや金属加工製造業などの工業用水、流域内の20箇所で行われている水力発電などに利用されていて、流域の社会、経済活動を支えています。
また、清流球磨川を利用した舟下りやラフティングなどの水辺活動が活発に行われています。”
*国土交通省ホームページより一部引用。
産地名『TAC』の由来と設立とは?
野田さんの事務所にお伺いし、産地名である『TAC』の由来についてお話を聞いてみました。
『TACやつしろ』の由来は、T:トライ、A:アンド、C:チャレンジで、「常に前向きであれ」という意味が込められています。これは、野田さんの信念でもあるそうです。
『TACやつしろ』の設立には、丸西産業(株)の岡島さん(前副社長)との出会いが、深く関わっています。
(*丸西産業(株)は肥料、農薬、飼料および農業資材の販売、農業生産物の流通、フルーツのカット工場を運営)
22年前、藺草(イグサ)栽培に限界を感じ、廃業寸前まで追い詰められた野田さんは、野菜栽培に転換しようとしたそうです。その時に尽力してくださったのが岡島さんでした。
「未経験の私たちのために栽培指導に始まり、法人設立にも尽力いただき、TACやつしろが現在あるのも岡島さんのおかげです。TACやつしろの命名者でもあります。」と、話してくれました。
また、法人設立当初は取引先も少なく、岡島さんと一緒に営業に回り、営業周りに困惑している野田さんに、「野田さん、出来ないと言ったら終わりですよ。」と、言葉をかけていただいたことが、野田さんの「覚悟」の瞬間だったそうです。
野田さんの目指す『人づくり』『ものづくり』とは?
野田さんの目指す『人づくり』、『ものづくり』についてもお話を聞いてみました。
「農業者は常に自然を相手に仕事をしています。TACやつしろも『太陽と大地と水の恵みに感謝』をキャッチフレーズとしていますが、自然の恩恵に心から感謝することもあれば、苦労して育てた野菜が台風や水害で被害を受けて心が折れることが幾度もありました。自然と共存していくためには『悲しみ』や『苦しみ』を素直に受け止め、さらにそれを乗り越えて『喜び』に変える強い心が必要です。とにかく『前向きに行動する』、それがTACやつしろの『人づくり』の考え方です。」と、熱く語ってくれました。
次に、野田さんの描く『ものづくり』について、お話を聞いてみました。
「『顔が見える野菜』という言葉をよく耳にしますが、生産者として常に『見られている』という意識は強く持っています。丹精込めて栽培した野菜を運んでいただいている業者の皆さま、調理してお客さまに提供していただいているモスのお店の皆さま、それを召しあがっていただいている消費者の皆さま、それぞれのお客さまに喜んでいただくことが最大の『使命』と『責任』と捉え、『ものづくり』に取り組んでいます。」と、話してくれました。
そして、「『お客さま信頼度日本一』を目指す。」という、野田さんの目標も、話してくれました。
この目標は、こうした『人づくり』、『ものづくり』に対する喜びと感謝の気持ちがあってこその目標であると痛感しました。
レタス栽培との出会い
就農46年、大ベテランの野田さんに、レタス栽培との出会いについてお話を聞いてみました。
野田さんは、20歳で就農し、25年間藺草(イグサ)を栽培していました。
だんだんと住宅に畳の部屋が少なくなり、中国から安価な畳表が輸入されるようになり、多くの藺草(イグサ)農家が経営に行き詰まり、最後には廃業を余儀なくされたそうです。
野田さんも当初は藺草(イグサ)との複合経営を考え、いくつかの作物を試作しましたが、規模拡大による収益確保ができず、なかなか前に進むことができなかったそうです。
苦悩の状況下で、一冊の雑誌が野田さんの転換の機会を与えたのです。
その雑誌は、米国の農業事情が掲載されている雑誌で、レタスの出荷量のうち、加工品目的のシェアが50%を超えたという記事でした。
野田さんは、「日本もいずれ米国のように、市場だけでなく、生産者が加工品含め業務用用途のお客さまへ直接納めるようになっていくのではないか?」という漠然とした期待感で、米国の農業事情を調査したそうです。
調査の結果、ほとんどの米国の産地は市場出荷で、当時契約栽培を行っている産地は少ないことがわかりました。
藺草(イグサ)を栽培していたころは、市場出荷で相場に翻弄された経験から、安定した経営を考えていたこともあり、市場出荷ではなく、契約栽培によるシェア拡大と、加工用に特化した契約栽培に魅力を感じて、2年の歳月をかけて転換したそうです。
『土づくり』
次に、『土づくり』ついてお話を聞いてみました。
最初は、『土』を知ることから始まるそうです。レタスの根はどんな土壌環境を望んでいるのか?を調べます。
そのために、土壌検査を行い㏗(土が酸性かアルカリ性かの程度を表す指標)、CEC(土壌の肥料を保つ力(保肥力)の指標)、塩基(石灰、苦土、カリ、ナトリウムなど、交換性陽イオン)バランスを調べて、必要な土壌改良剤を散布して土壌条件を改善します。おおむね3年から5年かけて徐々に改善でき、労力と費用がかかる作業だそうです。
これまで19年間『土づくり』を行ってきた成果が、現在の品質向上につながっていると話してくれました。
『ハウス栽培』
現在、200圃場ほどでレタスを栽培し、圃場ごとでレタスの個性(生育)が異なるので、品質を一定にするには、知識と経験が必要不可欠だと、話してくれました。
八代平野は、ほとんどが干拓地で地下水位が高く、排水が悪いのでレタス栽培には不向きな土壌であると思われていたそうです。
また、特に12月から2月の厳寒期は、低温、霜などで品質が安定しないため、野田さんは、ハウス栽培することで、冬(厳寒期)レタスの安定供給と他産地との差別化を図りました。
ハウス栽培を開始して19年、現在では16haのハウスを所有し、栽培面積の半分をハウス栽培としています。
『レタスの顔』
レタスは非常にデリケートな作物で、100人がレタスを栽培すれば100の顔を持ったレタスが出来るそうです。
レタス栽培に転換して2年間は、同じ肥料、同じ栽培方法でレタスを栽培しましたが、圃場が違えば品質が悪く、出荷ができないこともあり、苦戦したとのことです。
野田さんは、毎日何回も圃場まわりをしているうちに「ふと」気が付いたそうです。「俺は間違っているのではないか?自分の都合で作ることばかり考えていたのではないか?」「本気で勉強したか?」、圃場まわりをして本気でレタスと向かい合った結果、レタスに教えられたそうです。
『レタスの育ちやすい環境』
その答えは、『レタスが育ちやすい環境』をつくることでした。
「そのために私たちは知恵を絞り、労力を惜しまないという信念をもってレタス栽培に必要な『植物性』、『物理性』、『科学性』を学び実践してきました。」
また、『土づくり』を継続したことで病気の発生を抑え、適正な肥料散布で害虫の発生を抑制するという効果が確実に実っています。
「厳寒期はハウス栽培でレタスを栽培して、凍霜害を防ぎ、気象予報をもとに最低気温、平均気温を予想し、トンネル(被覆)を施して寒さからレタスを守り、レタスのストレスを軽減して健やかに育ってもらう、そんな思いを込めてレタスを栽培しています。」
『レタス栽培のデータ化』
TACやつしろでは、安全、安心はもとより、さらに「おいしさ」をお客さまに感じていただきたいと考えています。
「冬場のレタスは、収穫までに時間がかかります。ゆっくりと生育するので、『ミネラル』をたくさん吸収してくれます。」
「圃場環境を整えることにより、ストレスを軽減してレタス本来が持っている免疫性を高めてくれます。」
大切なことは適正な時期の「播種」、「定植」、そして一番大切なのは「収穫」の時期だそうです。「勘」と「経験」に頼る農業では進歩発展はなく、TACやつしろさんでは、これまで実践してきた栽培に関わるすべてのデータをデータ化することで、全社員が栽培に関わるデータを共有することができます。
また、これは、事業の継続に不可欠な後継者を含めた「人材育成」にも役立っています。
『地元の雇用創りと外国人技能実習生の雇用』
TACやつしろが取組んでいる『地元の雇用づくりと外国人実習生の雇用』についてお話を聞いてみました。
「現在、社員、実習生、パート、アルバイト含めて43名の人員で70haの野菜を栽培しています。TACやつしろさんの役員、社員17名は地元で採用しています。」
実習生16名は、ベトナムの女性、3名がカンボジアの男性です。パートさん3名は、地元で採用し、4名のアルバイトさんは、夏は長野県、冬はTACやつしろ(熊本県)で働く農業を知り尽くしたアルバイトさんです。
地元での採用を優先して求人募集もされているそうですが、最近の傾向は、全国で農業のアルバイトをしていた人が、将来社員として採用してほしいという人が増えているそうです。
野田さん曰く、「こうした人は、全国で農業経験を積んで農業のよさ、厳しさを知っているため、大きな戦力となっています。」と、話してくれました。
また、TACやつしろでは、外国人技能実習生がいかに安心して実習に取り組めるかを考えて、様々な工夫を行っているそうです。
毎月、全体および個人面談を実施し、雇用環境の聞き取りを行い、必要であればすぐに改善して、なんでも話せる風通しのよい環境を作ることを心がけています。
また、年1回、役員、社員、外国人技能実習生、パートさん、アルバイトさん全員参加で決算報告会を開催し、1年間の成果に対して、それぞれがどれだけ貢献したかを数字で見てもらい、次年度の就業環境について話し合うとのことです。
野田さんが社長として決算報告会で特に大切にしているのは、TACやつしろの仕事に対する『姿勢』と『お客さま信頼度日本一』を目標に、日々の仕事に取り組むことを役員、社員、外国人技能実習生、パートさん、アルバイトさん全員が周知することだそうです。
TACやつしろさんの直売所
最後に、TACやつしろの直売所を紹介したいと思います。
毎年6月10日前後から6月末の2週間程度、直売所を開設して、「メロン」、「スイートコーン」を販売しています。
直売所で使用するチラシは、野田さん自身が近隣の住宅、事業所にポスティングをしています。特にお中元の時期や特売日の日は、TACやつしろの「メロン」、「スイートコーン」目当てにお客さまがたくさん来店するため大渋滞になるそうです。
また、野田さんは、外国人技能実習生を直売所の接客担当にすることで、語学力アップにつなげているそうですが、今では会話も問題なく、直売所に来店されるお客さまからは人気者になっています。
野田さんからのメッセージ
野田さんにモスバーガーのお客さまに向けてひとこといただきました。
「孫がモスバーガーの大ファンでよく一緒にお店に行きます。どのお店に行っても、店内は活気があり、接客は明るく、そんなお店でレタスを使っていただいている生産者としては、とてもうれしくなります。今後も安全安心で、おいしいレタスをお届けいたします!!」
TACやつしろさんのレタスは、11月から5月ごろまで、モスバーガー店舗に出荷されます。ぜひご賞味ください!!
Text by Osako