産地だより 2020年11月

八代オーガニック研究会

2020年11月
熊本県八代市 八代オーガニック研究会(レタス)
代表生産者 亀山 直幸さん

今回の産地だよりは、熊本県八代市でレタスを栽培している協力農家さんの亀山 直幸さんをレポートします。

熊本のシンボル熊本城

今回訪問する熊本県では、2016年4月に大地震が発生しました。
私は、その日、ニュースを家で見ていたのですが、発生時として映し出された映像からも、市内を見下ろす姿での熊本城天守の瓦が激しい揺れで崩れている様子が見てとれたのです。
もちろん、地震は熊本県各地だけでなく周辺各地域にも大きな被害をもたらし、モスの協力生産者の方にも大変なご苦労をされた方も数多くいらっしゃったわけですが、なぜか当日見た、その熊本城の映像が頭の中からはなれなかったのです。
震災から4年半がたって、熊本のシンボル「熊本城」はどうなっているのだろう、そう思っていた矢先に今回、熊本へ出向くこととなり、調べてみることにしました。
「熊本城」の公式サイトでは、2026年度に完全復旧を目指し、現在も工事が進められており、天守閣は2021年春にも完全復旧し、内部公開の予定とあり、また、その被災状況や復旧過程の様子を、2019年6月に完成した「特別見学通路」で見ることができる、とのことが書いてありました。
そこで今回、城の近くに宿をとり、翌朝早くに、熊本城を訪れることにしました。
特別公開南口より見学通路に入ってみると、天空回廊のように、いつもは見られない高さと近さから建物や城壁を見ることができるようになっていました。途中途中で、地元の方にも説明をしていただいたこともあり、いくつかのポイントでその状況を目の前で見ることができました。

地上5~7メートルの高さに設置された。「特別見学通路」

地上5~7メートルの高さに設置された。「特別見学通路」

ところどころには、地震の爪痕が見られる。「連続外枡形」

ところどころには、地震の爪痕が見られる。「連続外枡形」

建物下部の石垣が地震で一部崩落。「数寄屋丸二階御広間」

建物下部の石垣が地震で一部崩落。「数寄屋丸二階御広間」

築いた時代の違う石垣が見られる。「二様の石垣」(手前)より天守を見る

築いた時代の違う石垣が見られる。「二様の石垣」(手前)より天守を見る

全日見ることができる今回のコース「南側ルート」の最後の場所は「天守閣前広場」ですが、その「天守閣前広場」の入口そばにあった「大銀杏」がふと目にとまりました。いわれを書いた銘板を見ると、加藤清正公が築城記念にお手植えしたものと伝えられ、1877年の西南戦争で天守とともに焼失しましたが、根本から芽が出て現在は大木として生い茂っているとのことが書かれていました。
焼かれても、芽を出した「銀杏」そのたくましさが、熊本の人たちの復興への力強さに重なりました。折しも、取材に訪れた3日前は、熊本市方面から阿蘇につながる国道57号が4年半ぶりに全線開通した日でもありました。

大銀杏。「本丸御殿」前

大銀杏。「本丸御殿」前

天守閣前広場から見る大天守、小天守

天守閣前広場から見る大天守、小天守

今回訪れた、「特別見学通路」は、以下のホームページで、通路の各場所からの見るポイントを「熊本城おもてなし武将隊」の方々が紹介されているYouTube画像が見られます。行かれる前にチェックされることをぜひお勧めします。(すごくわかりやすいです。)

特別公開 | 【公式】熊本城(外部サイト)
URL:https://castle.kumamoto-guide.jp/grand-unveiling/

八代市へ移動

熊本城での感動も冷めやらぬまま、熊本市内を後にし、車で八代市へ向かいます。
待ち合わせ場所で出迎えてくださったのは、㈲マスターフードの吉森さんです。モスが約20年近く前に、八代オーガニック研究会さんのレタスを初めて使わせていただいた頃からのお取引先です。
やがて、八代オーガニック研究会の代表生産者である亀山直幸さんとお父さまのご自宅兼、事務所に到着です。
八代オーガニック研究会は、亀山さんの会社(㈱かめやま)を含め3件の農家で組織されています。11月から3月までの期間、おいしいレタスを出荷していただいています。

ご自宅兼事務所

ご自宅兼事務所

事務所でお話を伺う

事務所でお話を伺う

そもそもこの八代オーガニック研究会が出来るまでのお話を先代のお父さまの堅さんにお伺いしました。
お父さまは、現在の場所で代々農家の家に生まれ、18歳の時から、八代では昔ほとんどがそうであったように、い草の農家をしていました。ところが、い草が海外でも生産が始まるようになって価格も次第に下がり、不安な日を送っていたそうです。
そんな際、たまたま足に大きなケガをされ休まれていたときに、い草の他にどんなものができるのかを本で読んでいたそうです。その中に、熊本でオーガニック認証を行おうとしていた団体の「第1期検査員募集!」の記事が目にとまったのだそうです。
「これは、勉強になる!」とすぐに応募し、その後徐々に勉強を重ね、なんとアメリカにも2週間ほど研修に行った経験もされたとのことです。
現在の「八代オーガニック研究会」の名前の由来がここにあります。
そうして始まったレタス農家の道、2年目の2003年、マスターフーズの吉森さんとお会いする機会があり、そこでモスを知ることになります。

お話される父親の堅さん

お話される父親の堅さん

八代オーガニック研究会

亀山さんは、現在、レタス18㏊、キャベツ6㏊の畑をもっていて、八代オーガニック研究会の仲間といっしょにレタス、グリーンリーフ、サニーレタス、キャベツ、ロメインレタスなどを栽培しています。
八代オーガニック研究会のレタスの品質のよさの理由として教えてくださったのが、お父さま自ら鹿児島の肥料会社に製造依頼して作った有機肥料です。大豆かす原料の有機肥料を使うことで作物を強くしているとのことです。病害虫に強い作物を作ることで減農薬にもつながる利点があるそうです。研究会のグループ全体で、共通した堆肥や有機肥料を使用することで、持続可能で味にこだわりをもって安心安全なレタスづくりを実践しています。

大豆かすを原料にした有機肥料

大豆かすを原料にした有機肥料

腐植酸を多く含む土壌改良資材

腐植酸を多く含む土壌改良資材

直幸さんが農業を始めたきっかけ

では、息子の直幸さんはどうして今、お父さまと農業をやっていらっしゃるのでしょうか。
実は、直幸さんは、大学卒業後、とあるブランドのアパレル関係の仕事をされていたそうで、初めは農家を継ぐ気はなかったそうです。
「子供のころ、父は、い草を栽培して出荷していました。い草は「泥染め」といって、刈り取った後のい草を乾燥から守り、品質をよくする目的の工程があるのですが、その泥埃が半端なく全身に付くんです。その中で作業していた父の姿を見ていたので、農業を継ごうとは到底思わなかったですね。」
当時、お父さまも、農業を継ぐことを勧めてもいなかったようです。学校を出て、実家を離れた息子さんが帰ってこなければやめようとさえ思っていたそうです。でも、心の中のどこかでずっとそのことは気になっていたようです。
大学を出て、アパレル関係の仕事についた直幸さんは、やがて職場の関係で知り合った奥さまと結婚することになり、何と実家に帰ってくることになりました。そして家にもどった直幸さんは、ちょうどレタスの栽培を始めていた父の姿をそこで見ることになり、父親からレタスの話を聞いてみたいと思ったのが、農業への入口となりました。

お話される息子の直幸さん

お話される息子の直幸さん

法人化の取組

レタスに興味を持ち、農業を始めた直幸さんは、もともと、アパレル関係で接客慣れしていたこともあり、その経験が生き、いろいろな方にレタスのこと、農業のことなどのお話を聞きに行き、教えてもらったようです。
そうしていく中で“3K”ともいわれる農業現場を変えたいという気持ちが芽生えてきました。以前のサラリーマン目線で考えてみると、もっと従業員の方の福利厚生にしっかりと対応し、長く働いてもらい、給料もたくさんとはいえないまでも安定して払っていきたい。そう思うようになったのです。
今までの農業を変えるためには、「法人化」しかないと、直幸さんは「農業生産法人株式会社かめやま」を設立したのです。
現在では、他県の専門学校を卒業した人材も入り、ここ3、4年は人員も安定して増えているそうです。
ちなみに、直幸さんは大学の経済学部卒。簿記にも明るいことが法人経営に役立ちました。
法人は、お父さまの堅さんが会長、息子の直幸さんが社長、直幸さんの奥さまが取締役で、社員6名、パートさん2名、ベトナムの研修生3名が中心となって働かれています。
今期8期目となる法人は、ここ数年は黒字で安定した経営状況とのこと。直幸さんに、安定した経営の理由をお伺いしました。
「ひとつひとつのことをていねいにやることの積み重ねです。あとは、仲間がいろいろな地域にいますから、そこから今後の生育環境の予測、またどんな病害がはやっているのかをつかむようにしています。それにより、先へ先への防除などの準備が行えるんです。」
実は、これらの情報源については、モスも一役買っているようです。
「モスさんから、熊本県に限らず、出荷シーズンの違う長野県や群馬県や静岡県の生産者も紹介していただいて、父も私も実際に見に行き話しを伺ったこともあります。今でも連絡したりしています。」
取引先の吉森さんと他の地域の出荷の現場を確認する機会を得て、求められている品質についても確認したこともあったそうです。
「こんなつながりが持てるのは、モスさんだからこそ、他の出荷先ではなかなかないことなのでとてもありがたく思っています。」と直幸さん。

ハウス内での堅さん直幸さん親子

ハウス内での堅さん直幸さん親子

レタスのハウス栽培

現在の畑で行っているのが、簡易型レタスでのハウス栽培です。
㈱かめやまでは、法人化してから年々こうしたハウスを増やしているそうで、中には収穫の終わったトマト農家のハウスを借りている場合もあるとのこと。
「昨今の温暖化による気象変化は生育や収穫量でも大きな影響があります。その点、簡易ハウスでのレタス栽培は様々なメリットがあります。」
「雨があたらないから病気が減るし、雨が降っても防除作業が出来る。保温性もあるため著しい温度変化が抑えられ、霜がつきにくく、レタス表面の傷みもなく、冬場の安定出荷にもつながります。」
デメリットはないのでしょうか、と質問してみました。
「ハウス建設のコストは当然かかります。収穫の回転数(1シーズンで何回繰り返して収穫できるか)にもよりますが、たぶん4,5年かかって、コストは回収できるのではないかと思っています。」簡易型ハウスでのレタス栽培は他県でも広がっているそうです。
「その他、品種選定(暑さに強い、寒さに強い、その中間など)についても、植える種類を八代オーガニック研究会のメンバーと分担して変えるなどのリスク分散も行っています。」
安定生産、安定出荷という農業の最大の課題を何とかしてクリアしようという心意気が感じられました。

レタスの苗を確認する直幸さん

レタスの苗を確認する直幸さん

ハウスの中で育つグリーンリーフやサニーレタス

ハウスの中で育つグリーンリーフやサニーレタス

亀山さんのこれからの夢

㈱かめやまは、お取引先からの要望もあり、3年前に、GLOBALG.A.P.を認証取得。これによって何よりも、働いている方の仕事への意識が変わってきたそうです。社長の直幸さんが言わなくても、現場で農業の各工程管理が以前よりしっかり行えるようにもなったそうです。
そして、直幸さんが現在計画しているのが、出荷後、出荷先までを考えたレタス自体の品質管理です。
その方法は、自宅そばの現在の畑を転用し、大型の冷蔵庫付きの二つの倉庫や冬春の産地としては珍しい「真空予冷装置」を敷地に設置しようというものです。真空予冷とは、庫内で減圧してレタスの表面だけでなく、芯温までも下げ、品質をできるだけ長時間保てるようにする技術です。
「九州から遠くのお客さんにもよい品質のものが届くようにしたいと思っているんです。」
来年2021年秋を完成予定で、現在計画を進めているとのことです。
生産の過程だけでなく、出荷した後の品質まで考えるこだわりようは「すごい!」の一言です。ますます、八代オーガニック研究会の未来に期待が広がりました。

GLOBALG.A.P.の認証書

GLOBALG.A.P.の認証書

設計図面を見せてくださった直幸さん

設計図面を見せてくださった直幸さん

取材を終えて

今回の取材の中で、熊本城では、大きな災害に見舞われても復活して今はたくさんの葉をつけた銀杏の大木を見て、熊本の皆さんの復興への熱い思いが重なりました。また、亀山さん親子には、先代までのご苦労とそれを乗り越え、若い世代が今希望に向かって歩いていくためにはどうしたらよいかと考える、その世代を超えた情熱を深く感じました。
いずれも、明るい未来への希望を失わず、強い意志と多くの方の協力があれば、必ずよい結果を生み出し、花を咲かせ実を結ぶのだと、教えていただいた気がしました。

そうした熊本の思い、そしてその地域で夢に向かう亀山さんたちのおいしいレタスは、11月ごろから3月ごろ、関東甲信越地域のお店に出荷される予定です。
ぜひ皆さんご賞味ください!

亀山堅さん・直幸さん親子

亀山堅さん・直幸さん親子

マスターフードの吉森さん(右)、モス取材者(左)と全員で

マスターフードの吉森さん(右)、モス取材者(左)と全員で

Text by Nakayama