2020年8月
岐阜県中津川市 加子母トマト生産組合(トマト)
代表生産者 萩原 真さん
産地だより 2020年8月
今回の産地だよりは、岐阜県中津川市でトマトを栽培している協力農家さんの萩原真さんをレポートします。
加子母地域について
取材先の産地が位置する加子母地域は、中津川市の最北端に位置し、北側には下呂温泉で有名な下呂市、東側には長野県王滝村、西側は加茂郡東白川村に接し、約1,000世帯、人口2,800人の集落です。東濃ひのきの里としても有名です。
車で名古屋駅から中央自動車道を中津川インターインターチェンジで降り、そこからさらに約60分、国道257号と256号を北上していき、しばらくすると「加子母トマト生産組合」の看板が出迎えてくれます。
恒例、ご当地の食を探訪
集合場所としていた選果場での集合にはまだ時間がありましたので、近隣の食堂「大臣」さんでお昼をいただきました。メニューを見ると、「鶏(けい)ちゃんセット」なるものが目にとまりました。元々はここの地域近辺での鶏肉を使った郷土料理のようです。お店の方に聞いてみると、下味のついた鶏肉を、キャベツなどの野菜といっしょに鉄板で焼いて食べるとのこと。目の前で焼きながらでしたので食欲もそそられ、最後には、満足、満腹となりました。
加子母トマト選果場に到着
加子母地域は、標高400mから700mの中山間地域にあり、夏は冷涼で、冬は雪に覆われ、7月から11月に出荷される「夏秋トマト」の有名な産地です。昭和41年に組合組織をつくって以降、50年以上の歴史があります。
組合の選果場の事務所で、JA全農岐阜の高木さん、JAひがしみのの指導員の佐伯さんに、昨年の収穫状況や今年すでに始まっているトマトの品質状況などをおうかがいしました。
お話をうかがっている中で、後継者となる新規就農者についても話が進みました。JAひがしみのでは、現在、就農される方に研修用ハウスを貸与して、地元の生産者が先生になって就農者自身が栽培する制度などがあるそうです。管内では4か所あり、加子母地域でも独自に1か所あるとのこと。
また、「ひがしみの夏秋トマト生産協議会」として昨年の秋に、岐阜県GAP確認制度に取組み、生産物だけでなく、地域全体の安全・安心にも努力されていることがわかりました。
山間地にも関わらず、以前より下水道も整備されていて、「水を汚さない、下流の人たちへも流さない」という他への配慮も大切にされていて、持続可能な農業を続けていくその姿勢に、地域の皆さんの熱意を強く感じました。
加子母のトマトといえば、「中嶋農法」の産地として有名です。
「ミネラルが豊富で栄養価の高いトマトをつくるには、まず土壌づくりです。土壌分析を行ない、植物が必要とする養分が足りているかを調べ、足らない養分を加えてトマトの根が養分を吸いやすい健康な土を作ります。土づくりによって元気になった作物は病気に対する抵抗力がつき、そのため農薬の使用を減らすことができる。」(道の駅加子母のパンフレットより)
こうした考え方は20年以上前から、国産野菜の取組をおこなってきたモスの考え方にも合致していて、私たちの取組の当初から協力農家としておつきあいをさせていただいています。
萩原さんと加子母のトマトとの出会い
選果場から車で移動、ほどなく萩原さんのトマトハウスに到着です。
当日は曇天とはいうものの、暑さと換気に注意したうえで、作業用置場となっているハウスでお話をうかがいました。
萩原さんは、現在、東美濃夏秋トマト生産協議会の会長、その一部である加子母トマト生産組合の組合長も兼任されています。トマトを作り始めて13年目となられますが、実はIターンの新規就農者だったそうです。
「就農するまでは、ミツバチやマルハナバチを飼育増殖販売する会社で技術営業として全国のいちご、メロン、スイカ、果樹、トマト、ナスの花粉交配作業のお手伝いをしていました。その中でも私はトマトの営業が専属で、47都道府県すべての産地を回りましたが、加子母地域を訪れた際、そのトマト栽培技術がとても優秀で、何しろ一番おいしかったので、この地で就農することを決めたんです。」
「野菜の中でトマトは一番作りにくい作物だと思います。その中でも大玉トマトは一番技術が必要な野菜なんです。加子母地区はその大玉トマトを50年にわたり作りこなしている産地なので自分も挑戦してこの手でおいしいトマトを作りたい!と決意して、現在に至っています。」
萩原さんのトマトハウスは、2反(約600坪)ほどの広さで、育苗も含め20棟あまりのハウスで奥様と2人で栽培をされています。
昨年の大幅な品種変更と今後の展開
加子母のトマトといえば、この業界?では有名な「桃太郎(品種)」を作りこなす50年の歴史のある産地でしたが、ここ最近の著しい気象変化で、裂果現象に悩み続けてきました。
「ここ5~6年にわたる夏期の猛暑に裂果は増え続け、人によっては、1/3の収穫という人もいるくらいで、やむを得ずトマトを廃棄という悲しい状況にも直面してきました。」
そこで、「麗月」という品種を一昨年から試作で開始。最初は1~2棟でやり始めたそうです。他の産地での情報も集めながら、組合では毎月の理事会で何度も試食検討。また何度も話し合いを行いました。昭和の時代から生産者の方にとってはそれだけ思い入れがあったからでした。「『とにかく育ててみてください。』と言い続けました。後継者である若い人には希望が持てる経営、生活も大事だと思っていたからです。」
「麗月」は、1段あたりの花数が多く、摘花の際に形のよい花を選べるという長所もあるそうです。裂果がほとんど無く、現在の加子母トマトに最も食味に差が無い品種が麗月であると判断し、それまでの桃太郎品種だけでなく、昨年、基幹品種として採用に踏み切られたとのこと。
地域の「品質へのこだわり」の並々ならぬ思いと、産地の将来を真剣に考えたからこそのお話だと強く思いました。
「他のお取引のお客さまから品質面で大変評価をいただけたため、今年はさらにその栽培を広げ、おいしい高品質なトマトづくりに注力していこうと思っています。」
安全・安心、おいしさと品質向上の取組み
「当地域のトマトは、化成肥料、化学農薬を岐阜県の慣行栽培※の30%を削減して管理しており、皆様に安心して食べていただける様、努力しています。」
「他の作物でも同様ですが野菜は土をしっかり作り、トマトの生育に必要な栄養素を段階、段階で与えると抵抗力がつき、病気や害虫がつきにくくなります。どかっと元肥をやり、あとはほっとくような楽は出来ません。細やかな観察と管理の上で安定したおいしさと品質を生み出すことができるのです。」(※一般的な夏秋トマト産地のこと。)
栽培のうえで、重要なことは何かを質問してみました。
「茎の太さ、葉の立ち具合といった「樹姿」が重要です。あとは。根の生育状況をしょっちゅう見ることですかね。試しに根元を掘ってみて白い根になっているのが一番いいんです。根が茶色だと不健康。白っぽい根であれば健康。観察は地上だけでないんですよ。また、手入れをして、カビや虫がつくスキを作らないことも大切です。」
「潅水の方式としては、「矢野散水システム」を採用しています。黒マルチ(ビニール)の上に散水ホースをはわし、間隔をおいたノズルから水や肥料の溶液を均一に飛ばすことができます。通常は潅水ホースが有機成分などで目詰まりを起こしますが、つまればノズルの掃除もできます。」
「水やりは、1株の蒸散量を考えながら、根が地下水をどれだけ吸い上げるのか、どれだけ水をやれればいいか、JAの指導員の方とも相談しながら計算して施しています。ここのハウスは元が水田ですが、山土のところもあり、そこで計算も異なってきます。1株で5リットルも葉から水分が蒸散することもあるんですよ。」
熱意だけでなく「道理、理屈」での農業のお話にいちいち納得の連続でした。
天候不順への改善策
「ここ5~6年、当地区は梅雨寒以降猛暑の影響でトマトの花芽(花になり後に実になる芽)の維持に苦労しています。花芽をいかに飛ばさず(花芽がつくことを)維持するか、それが安定生産につながります。」
「対策のひとつには、作型を早めて梅雨寒でも7月に生産量を確保する。もうひとつは作型の遅い区をつくり、盆前の出荷集中を避け、お盆以降の成り疲れでの減少期に出荷量を維持する。こうした作型の調整策を進めています。」
「実験的ですが、トマトがたくさんなる「成り疲れ」期に生長点の花芽を確保するために、遮光資材で花芽をいたわったり、通路に頻繁に水まきすることでハウス内の湿度を上げ、花芽をいたわる管理なども行っています。」
加子母トマト生産組合のこれからは
「若い人が育ってほしいと思います、また実際に育ってきているのがとてもうれしいです。私のところによく聞きに来ますよ。その時は全力でアドバイスするようにしています。生理障害なのか?、葉に変な模様が出ている?・・などいろいろの相談です。図鑑などではわかりにくいことが実際の現場では起こります。ここは、自然や土壌などの地域環境が同じエリアの先輩農家じゃないと、アドバイスできないところですね。」
「『悩んだら電話しろ。』先輩農家としていつもそう言っています。」
トマトは、樹勢コントロールが難しい野菜です。こんな萩原さんも最初は失敗したそうです。
「肥料をやりすぎて4Lというとても大きなトマトが一時にたくさん出来てしまい、そのせいでトマトの樹の成長に負担をかけ、その先の回復に時間がとても長くなってしまったんです。」
若い方への期待もおうかがいしました。
「若い人の感性は大事ですね。ネット販売とかこれからは必要だし、理事会もLINEで共有するようになりました。また、夏秋トマトは苗づくりも大切なので、育苗ハウスのIT化など、ますます期待したいところです。」
萩原さんからのメッセージ
“土が健康なら、そこで育つトマトも健康、それを食べる人間も幸せ!”
「当地域では土づくりに徹した中嶋農法に通り組んでいて、これが私たちのモットーです。
加子母は木曽川、飛騨川さらに上流加子母川の水源地の最上流のおいしい水をふんだんに使い、トマトを育てています。山々、森に囲まれたおいしい空気。盆地気候の寒暖差のある気候でさらにトマトの味が凝縮されます。」
「ぜひモスバーガーにおこしいただくお客さまに召し上がっていただきたいです。」
萩原さんたちの加子母トマト生産組合のトマトは、静岡、中京、関西、四国地域のモスバーガーに7月から11月ごろにかけて出荷されます。
ぜひご賞味ください!
Text by Nakayama
今年、7月に発生した「令和2年7月豪雨」にて被害に遭われました皆さまに、心よりお見舞いを申しあげます。
(今回の産地だよりの取材ならびに撮影日は、2020年7月2日です。)