2019年8月
広島県山県郡北広島町 JA広島市 芸北野菜部会 トマト専門部会(トマト)
部会長 岡本 健さん
産地だより 2019年8月
今月の産地だよりは、7月下旬から9月下旬にかけて、中国地区のモスバーガーにトマトをご供給いただいている、JA広島市芸北野菜部会トマト専門部会の岡本健(たける)さんをご紹介させていただきます。
広島県は瀬戸内気候で温暖じゃなかったっけ?
今回の取材を担当したモススタッフの筆者は、生まれも育ちも関東圏。広島県と聞けば、広島カープ、もみじ饅頭、カキ、そして瀬戸内気候で温暖、というイメージで今回の取材に臨みました。
あいにく、取材当日の7月某日は警報が出るほどの大雨。豪雨の中、北広島町の芸北地区に向けて車で走っていると、出てきました。「北広島町」という看板!…ん?!雪だるま?!なんと、温暖なはずの広島県ですが、調べてみると北広島町は町内に5箇所のスキー場を有し、標高1,000m級の山が連なる中国地方屈指の豪雪地帯なのだとか。2016年には1m40㎝を超える積雪も記録しています。
北広島町芸北地区をリサーチ!
北広島町は、2005年に、芸北町、大朝町、千代田町、豊平町の4町が合併して誕生した町です。そのなごりで、トマト部会には芸北の名前が冠されています。
まずは、芸北地区の情報収集を兼ねて、地元の方からの事前の紹介もあり「芸北オークガーデン」に行ってみました。芸北温泉、宿泊施設、レストラン、アイスクリーム工房、グラウンドゴルフ場などを有する、地域の憩いの場になっています。レストランにて、「何か地元の有名料理はないですか?」と聞くと、店員さんから、アマゴの塩焼き、イノシシの天ぷらの2品をご推薦いただきました。
アマゴは歯触りの良い繊細な食感で、川魚がやや苦手な私でも大満足の一品でした。イノシシ肉は、若干の臭みはあるもののそれほど気にならず。天然のパワーをいただいたという元気な気持ちになる一品。芸北にお越しの際は、ぜひ、お立ち寄りを!
JA広島市芸北支所に到着
豪雨の中、やっとのことでJA広島市芸北支店に到着。JA職員の広兼さんと水口さんにお出迎えいただきました。広兼さんから、現在の芸北野菜部会の情勢についておうかがいしました。
地域の主な作物はトマト、ほうれん草、キャベツなど。トマト専門部会には約50名の生産者が所属しているそうです。そのうち3割ぐらいは若手の農家さんもいますが、メンバーの中心はベテランの高齢農家さんが多いそうです。町とも協力して、町外から若手の新規就農者を受け入れ育成するシステムにも取り組んでいますが、ここ3年は新規の就農者も来ていないとのことで、なかなか農業の担い手は集まらないのが実情のようです。
「野菜部会の売上は、以前は年間2億円規模ありましたが、現在は半減しています。昔と比べて、毎年異常気象も発生しています。何とか右肩下がりの現状を食い止めて、地域を活性化していきたいところですね。」と広兼さんは言います。
トマト部会長、岡本さんの圃場へ
岡本さんは今年で47歳。ベテラン農家の雰囲気を醸し出していましたが、お話を聞いてみると、以前は食品関係の会社に勤務されていたとの事で、5年前に新規就農者として農業を始めたそうです。トマトは、お父さまの代から栽培を行っていたそうですが、「ハウスのビニール張りとトマトの苗植えくらいは手伝っていたが、トマトの畑に入ることはほとんどなかった。」と、トマトの栽培知識がほぼ無いところからの就農だったそうです。
現在、18アール(約1,800平方メートル)の面積でトマトを栽培しています。岡本さんが
目標としている収穫量は、10アールで10トンのトマトの収穫です。
ここ4年間の成績は、10アールの面積で、7t→8t→10t→6tと、昨年は西日本豪雨の影響で少しへこんだものの、「今年は10tを確実に目指す。」と意気込んでいます。
まったくわからないところからのスタート
「5年目でトマトの栽培方法はわかってくるものですか?」(モススタッフ)
「始めたころは、何がおかしいのか、どう質問したらいいのかもわからない状態からのスタートでした。」(岡本さん)
そんな岡本さんの大きな助けになったのが、農業技術を指導してくれる広島県の農業改良に携わる普及指導員さんの存在だったそうです。新規就農で不安の中でトマトを栽培する岡本さんの圃場に、足繁く来てくれて、細かに栽培技術を指導してくれたそうです。
「トマト栽培の本を読んだり、普及員さんに聞いたりして、少しずつトマトのことがわかるようになってきましたね。皆さんの手助けもあって、また1年目は天候に恵まれたこともあり、まあまあの収穫量が採れたのが自信につながりました。」と岡本さんは言います。
AI(エーアイ)農業への挑戦
「今年からは、AI(エーアイ)を導入しているからね。」と何気なく話す岡本さんに、
「エーアイ?それは何ですか?」とモススタッフが食いつきました。
岡本さんは、今年から「ゼロアグリ」というシステムをトマト栽培に導入されているそうです。今まで、農家さんの経験と勘に頼るところが多かったトマトへの肥料や水の供給を、圃場内に設置したセンサーが土の中の肥料分、水分などを計測し、全自動で管理をしてくれるという画期的なシステムだそうです。
「うちの畑でも、半分は粘土質でもう半分は砂地と、全く違う土質です。5年やってみて、
一定した管理がとても難しいことを痛感していました。今まで砂地は水はけがいいから水は多めで、粘土が水はけが悪いから水は少な目と考えて、肥料や水を与えていました。ところが、AIに任せたところ、自分がやっていた管理とは逆に、砂地は少な目、粘土には多めという判断で、肥料と水を与え始めたんです。これが予想を超えて上手くいっているんですよ。人間の知恵だけではどうにもならないことが出来る。これはもう恐ろしいくらいですよ。」と岡本さんは言います。
さらに、ハウスの中には、広島県の農業技術センターが考案した、自動遮光装置も配備。太陽光線が強すぎるとセンサーが判断して、ハウスの上部に自動で遮光カーテンを引いてくれます。岡本さんのAI農業への取り組みは、芸北地域、さらには県の農業界の中でも、現在、注目の的になっています。
土づくりも大事
AI農業など、先進的な技術に取り組む岡本さん。土づくりとか堆肥とか、昔ながらの農業のやり方には興味はないのかなと思い、聞いてみると、これまた意外な答えが返ってきました。「いやいや、そんな事ないです。堆肥も微生物も入れますよ!土づくりには徹底的にこだわりますよ!」と岡本さんは言います。
芸北地区には、約20軒の畜産農家があり、堆肥の原料の調達には事欠きません。岡本さんの農場では、2年に1回、2トン車10台分くらいの牛糞堆肥をもらってきて、有用微生物資材を独自にブレンドして、自家製堆肥を製造しています。
もう一つの工夫が、もみ殻を炭にした「くん炭」を畑に入れていることです。
「コルキルートという病気が畑で出ていたので、炭は除菌効果があると聞いていたから、炭で何とか解決出来ないかな?と試してみたのが始まりです。後で調べてもらったら、病原菌の数が明らかに減っていた。効果があったんですよ。」と岡本さんは言います。
ここまで土づくりにこだわった岡本さんの畑は、トマトの収穫が終わったあとでも土がフカフカで足が沈むほどだそうです。
地域活性化のために
「就農5年目の自分が、いきなりトマト部会長になってしまったので、無茶苦茶といえば無茶苦茶ですが、自分らしく好きにやるしかない。」と岡本さんは言います。
「岡本さんが部会長になって、芸北トマト部会の明るい未来が見えてきましたね。」とのモススタッフからの問いかけに。
「そうなんですよ!そうしますよ!農家はこのままでは大変ですからね。私も地に足をつけて取り組んでいますし、これからみんなの収入が上がって、元気で長く、楽しく農業が出来れば、それでいいじゃないですか!活気のある産地、楽しい産地には、外部からも新規就農者が必ず集まってきます。自分が必ず変えていきますよ!」と力強く語ってくれました。
岡本さんからのメッセージ
今年から、真っ赤に熟して形も綺麗な「麗月」という品種を取り入れています。モスバーガーさんにもピッタリの品種だと思いますよ。
私たちがこだわって作ったトマトを、ぜひ、モスバーガーのお店に足を運んで食べてみてください。
Text by Sato