2016年11月
【産地だより特別編】
半月で4つの台風が北海道に上陸。その爪痕と農業への影響
産地だより 2016年11月
この度の台風について被害にあわれた方々に深くお見舞いを申しあげます。
農業にとって「天候」はよくも悪くも大きく影響を与え、その中でも「気象災害」は人がどうすることもできない状態にします。そこでの様々な教訓は忘れないようにしたいのですが、時間とともに記憶が薄れてしまうのも事実です。そこで今回の産地だよりは2016年8月中旬から半月の間に観測史上初めて4つの台風が北海道に残した爪痕や影響を現地確認・取材した内容とし、あえて記録として残しておきたいと思います。
-台風7,9,10,11号が北海道に与えた被害数値-
農業被害額:543億円
農作物の被害面積:30,8927ha
北海道新聞の記事より
各台風の特徴(北海道に上陸した順序で記載 ※10号を除く)
- 台風7号
8月17日、襟裳岬上陸。本州に上陸せずに北海道に直接上陸したのは23年ぶり。 - 台風11号
8月21日、釧路に上陸。これも直接北海道に上陸。 - 台風9号
8月23日、日高地方に上陸。1951年観測・統計開始初めて“3つの台風が北海道に上陸”の記録となる。 - 台風10号
台風の寿命は通常発生してから数日間が普通であるが、この台風は11日以上と異例。
8月19日発生から迷走を始め、北海道には8月29~31日の長時間、道全体に多大な影響を与えた。
現地確認できた各地の状況と農産物に与えた影響
<北見・網走地方>
- 氾濫危険水域を超える河川により、収穫間近の玉ねぎが冠水。常呂川は4か所で防波堤を超える。テレビで圃場が湖のようになり、玉ねぎがどんどん流されていく映像は非常に痛々しかった。
- JR線路路盤が流される、橋が崩落するなどの被害で北見地方の玉ねぎを運ぶ“タマネギ列車”が運行停止。(トラック輸送に切り替えても制約あり)
<十勝地方>
- 停電のため絞った牛乳を冷却できず、100t以上を廃棄。
- スイートコーンは強風によりほとんどが倒伏したため収穫機械の作業スピードが半分以下となる。スイートコーンは収穫適期期間が短いため、この期間に収穫することができずそのまますき込む圃場が続出。またスイートコーン加工工場は浸水により操業停止状態が続く。
<胆振地方>
- トマト、レタスの主力産地のひとつである伊達市、洞爺、真狩周辺も強風の影響を大きく受けた。
- トマトはハウスの倒壊、ビニール剥離。レタスは風に強く揉まれて、数日後には萎縮、溶けることが現場で容易に判断できた。定植したばかりの苗は吹き飛ばされて、圃場は歯抜け状態。
- その他、長ネギは途中から折れて出荷数量は激減、ブロッコリーは強風で曲り、豆の棚は倒壊寸前。
- それでも雨が少なかったために「水の重みによるさらなる被害は軽減された」と判断。
「(株)モス・サンファームむかわ」トマトハウスも冠水被害!
- 昨年からトマト、レタスの栽培を開始したむかわ町にあるモスファームも台風9号による冠水被害を受けました。
- 8月23日朝5時頃、ファームの横を流れる用水路の水位が急激に異常上昇。ハウスの出入り口に土のうを積む時間もなく、用水路から溢れた水が容赦なくハウス内に浸入。
- 水が引いた後から“葉カビ病”“灰カビ病”の蔓延速度が増加、防除も間に合わない状態を毎日悔しい思いでの収穫作業。否応なく出荷不可トマトが多くなっていきました。
- この地域の用水路はよく整備されておりこれまで氾濫したことはなかったのですが、上流の日高地域に短時間に降った雨が一気に流れてきたことが原因でした。
- 当時むかわ町では雨も風も弱く「今回も大丈夫かな…」と少し安心していたところへの急襲でした。
「まさか!でしょ」「ココは大丈夫っしょ」は厳禁
- 今回の一連の台風で、被害にあった人の声の共通点は「あのおとなしい川が氾濫するとは…」「生まれてからここにいるが、川が溢れたのは初めて」など『まさか!』が多いことでした。
- 特に北海道に来るこれまでの台風の大部分は、弱くなった状態、あるいは温帯低気圧に変わった後であるため、注意認識が少ないと思われます。
- 地元の天候だけを見て判断するのではなく、テレビなどで北海道全体の天候情報把握をしなければならないとあらためて感じました。
避難情報の再確認と五感を生かすこと
災害時に報道で繰り返される行政からの「避難」についての情報についてあらためて確認しておきたいと思います。
- 避難準備情報
住民に対して避難準備を呼び掛けるとともに、高齢者や障がい者などの災害時要援護者に対して、早めの段階で避難行動を開始することを求めるもの。 - 避難勧告
災害によって被害が予想される地域の住民に対して、避難をすすめるもの。 - 避難指示
住民に対し、避難勧告よりも強く避難を求めるもの。避難勧告よりも急を要する場合や人に被害が出る危険性が非常に高まった場合に発表される。ただちに避難する。
しかし、五感を働かせ『危ないと思ったら逃げる』。たとえ何もなく大丈夫であっても
『恥ずかしがらない行動』、『自分は自分で守る』ことが最も大切だと思います。
まず、自分の、家族の、地域の『命』を守る姿勢でいざという時に対処する意識を持ちましょう。
Text by tomio