2016年9月
熊本県八代市
(株)モスファーム熊本(トマト)
農場長 笹島 明久さん
産地だより 2016年9月
平成26年の農水省の新規就農者調査データでは、新規就農者57,650人のうち、農業法人へ就職という形で農業の道に入られた方が7,650人。そのうち、農家出身者ではない方が6,160人と、「農業に就職する」という選択肢で農業の世界に入ってくる若者が増えています。今回の産地だよりは、そんな若者の一人である、モスファーム熊本の農場長、笹島明久さんにスポットをあてます。
農業の世界に入るきっかけ
笹島さんは現在35歳。茨城県のご出身。ご両親とも公務員というご家庭で育ち、大学時代はプログラミング言語を専攻されていたということで、農業とは全く縁のない道を歩み、県内の保険会社に就職され、営業職として活躍をされていたそうです。
そんな笹島さんを農業の道へと誘ったのは、営業で訪問した茨城の富田農園の社長さんからの何気ない一言からでした。
「初めは保険の営業のお話で訪問したのですが、話しているうちに、『うちで少し農業の手伝いでもやってみないか?』というお誘いを受けたんですよ。」
笹島さんも、本当に軽い気持ちで、お休みの日に農業のお手伝いに行ったそうです。そこで初めて農作業に触れ、種蒔きの仕事をやらせていただいたそうです。その時に、「あれ?この仕事自分に合っているな。こっちの方が自分に向いているな!」と直感的に感じたそうです。その時以来、農業を仕事としてやりたい。という思いが固まっていったそうです。
茨城から熊本へ赴任
農作業をお手伝いした縁で、富田農園に就職という形で農業の道に入った笹島さん。
しかし、その道は順風満帆とは言い難い道となりました。
「就職して1年目に、東日本震災が発生して、茨城県でも大きな被害がありました。
その後の風評被害もあり、一時的に、作物を作ってもどこにも出荷ができないという状況に陥りました。富田社長の考えもあって、リスクヘッジの観点からも九州に農園を立ち上げようという話になったんです。」
その後、社長同士が知り合いであったとのことで、モスファーム熊本代表の上中さんを頼って、熊本に農場を立ちあげることになりました。笹島さんは、その農場の責任者として、熊本に赴任することになったのです。
「最初は、熊本での農業は一時的なものと考えていたのですが、熊本の皆さんの農業技術の高さ、暖かい人柄に触れ、その後、当初の計画も変更されたこともあり、長期的に農業に取り組むことを考えた時に、茨城から移住して、腰を据えて農業に取り組もうという考えに至りました。」と笹島さんは言います。
今年、熊本出身の奥さまとめでたくご結婚をされました。家族を持ったことで、より真剣に、責任感を持って、トマト作りに取り組むようになったそうです。
農場長のお仕事とは?
農場長という立場の笹島さんの日々のお仕事は、いったいどのようなものなのでしょうか。
「私自身も、農場の管理作業、収穫作業にも入りますが、それは、現場の状況を把握するという意味合いの方が強いですね。7名いる実習生への作業指示、2名いる社員への作業指示などしながら、農場全体を巡回し、病気、虫害などが発生していないかをチェックして行きます。全体を見ながら、農場の次の作業計画を立てるなどの仕事をしています。」
また、モスファームには、お取引先さまや視察の方など、沢山のお客さまもご来社されます。
「農場を訪れていただけるお客さまへのご案内、ご説明もとても大事な仕事です。モスグループの一員として、私たちの栽培へのこだわり、考え方を理解していただくこともとても大事な仕事です。」と笹島さんは言います。
トマト栽培歴は3年目
笹島さんのトマト栽培歴はまだ3年とのことですが、最初は誰かトマト栽培の技術指導をしてくれる方がいたのでしょうか。
「トマト栽培1年目の時は、モスファーム熊本の役員の一人である、高野さんに、種蒔きから収穫までのすべての仕事を、徹底的に教えていただきました。」
トマトの樹の見かた、その時々のトマトへの対処方法など、マンツーマンで名人の技術を体感する機会を得たそうです。
「1haなどの広い面積で仕事をしていく中で、高野さんは、細かいところに一番気付かれるなという印象でしたね。トマトハウスの窓の開閉、太陽光線を調整する遮光のタイミングなど、まさに絶妙ですね。温度、湿度の管理、病害虫発生の細かなチェックなど、やはり40年来トマトを作られてきた方は違う。やはり技術が群を抜いているなと感じました。」と笹島さんは言います。
「自分もまだまだですが、3年目ですが、高野さんからトマト栽培において、ここは見落としてはいけないというチェックポイントは確りと伝授してもらったつもりです。まだまだではありますが追い付け追い越せの気持ちで頑張ります。」
トマト栽培のこだわり
現在、笹島さんがトマト作りにおいてこだわっていることに、「土を大事にする農業」というキーワードがあります。
「肥料のバランスをしっかりと考えて施肥をすることを心がけています。従来型の農法では、肥料は多いほどたくさん取れるという勘違いもあり、肥料のやり過ぎで土が壊れている畑がたくさんありました。」と笹島さんは言います。雰囲気では絶対に施肥はしない。必ず、土壌分析をして数字を見て、理にかなった施肥をすることを心がけているそうです。
また、近年の異常気象が常態化する中で、天候不順の際にも安定して収穫を行うための技術も求められます。曇天で晴れ間がないということは、植物が光合成で作り出す養分が足りなくなり、樹のバランスを崩す原因になります。笹島さんはじめ、モスファームのスタッフたちは、天候に左右されずに、光合成で作り出す養分を人の手で足してあげるという栽培法を研究して、生産現場に取り入れています。
「肥料を過剰に入れ過ぎると、葉が黒くなったり、大きくなりすぎて垂れてしまったりなどの弊害が出て、病気や害虫の発生原因になります。そうした症状には、ずいぶんと対処が出来るようになってきました。」と、笹島さんは自信をのぞかせます。
兄弟対決?!
実は、笹島さんのお兄さんの基弘さんも、前出の富田農園のスタッフとして農業に取り組んでいます。今年の7月より、弟に刺激を受けたのか、新規のモスの協力産地として、トマト作りの取り組みを始めました。
「兄のことは、正直、意識はしていますね。私は熊本、兄は茨城でトマト作りに取り組んで、ともに、モスバーガーに出荷をしているという間柄ですが、トマトについては、私の方が3年先に始めたということもあり、兄には負けたくない気持ちはありますね。」と笹島さんは言います。兄弟ともに切磋琢磨して、よりよいトマト作りを目指しいただければ、モスとしては嬉しい限りです。
笹島さんからのメッセージ
みんなで一生懸命トマトの世話をして、納得するトマトが収穫できた時の喜びは、サラリーマン時代には味わえない別の種類の感動がありますね。逆に、台風や集中豪雨などの自然災害でトマトが被害に遭って収穫出来ないときは、本当にガックリきます。
トマトは植物、生き物ですので、病気や虫の害に遭う可能性はあるのですが、皆さまが口にされる食べ物ですので、なるべく農薬の使用を抑えながら、別の方法で病気や虫の被害を抑えることで安全、安心なおいしいトマトの栽培をしていこうと思っています。
Text by Sato