2016年1月
広島県尾道市瀬戸田(せとだ)町
JA三原 柑橘事業本部(レモン)
原田 悟さん
産地だより 2016年1月
瀬戸内海には島がいくつあるかご存知でしょうか。今回ご紹介する広島レモンの産地、瀬戸田(せとだ)町は広島県の南東部、瀬戸内海のほぼ中央に位置し「生口(いくち)島-周囲28km-」と「高根(こうね)島-周囲12km-」の2島からなっています。人呼んで“瀬戸内海に浮かぶレモンの島”ですが、その地形は50%が急傾斜地。農作業をするには重労働ですが、年平均気温が15.5度と暖かく、土壌は水はけのよい花崗岩、降水量も比較的少なくレモン栽培には恵まれた条件です。
日本でのレモン栽培
「レモン」は海外から来るもの、それは例えば暖かな西海岸カリフォルニアなどを連想しがちですが、日本でも立派な国産レモンの産地があります。その中でも広島県は国産レモンの半分以上を生産出荷しています。その歴史は古く、明治にはモモ、ナシやネーブル・レモンなどのかんきつ類の導入がはじまり、レモンの本格的な栽培は昭和元年(1926年)から開始されました。
苦難の歴史
昭和11年(1936年)には日本で初めて「レモン谷」と呼ばれた地区が産地化され現在のせとだレモンの基礎となりました。またレモンと並行してミカンなどのかんきつの種類や数量とも順調に増加します。しかし戦後の高度成長期、昭和39年(1964年)の「輸入自由化」により国産シェアが奪われる大打撃を受け産地も壊滅してしまいました。その後10年の歳月とともに「国産レモンの見直し」がはじまり、新たにレモンの増殖を開始。産地の方々の並々ならぬ努力によって平成15年(2003年)環境保全型農業として「エコレモン」が環境保全型農業推進コンクール優秀賞を受賞、また平成20年(2008年)には「せとだレモン」として「広島県特別栽培農産物」として認定されるまでとなりました。
“まろやかで味のある”レモン
レモン栽培の現場や栽培について、指導農業士でもある原田 悟さんにお話を伺いました。最初に「海外レモンとの違い」についてお聞きすると即座に糖度計を持ってこられてレモンを輪切りにしその果汁を測定。「ほら、“8.2”でしょ。レモンというと酸っぱいだけのイメージがあるけど、このレモンは味の幅が広くて濃厚な味がある。よく味わってみて」。食べる前から輪切りのレモンは口と頭に“すっぱさ”が先にきてこれまで“味わう”という機会はありませんでしたが、確かにその通り「こんなに味があるし、まろやかで口当たりが良いものだったんだ」とあらためて驚きました。
レモン栽培の難しさ
次にレモン栽培の難しさや苦労することを伺いました。「レモンは5月頃に花が咲き結実し始めます。そして11月に入ると大きくなったものから収穫が始まって4月までその作業は続くんですよ。一番恐ろしいのは『寒さ』。レモンが極端な寒さにあたるとレモン全体に傷みが出て出荷できるものがなくなってしまいます。夏から秋はやはり『台風』が怖い。風で樹が揺すられるとレモンの実に傷がついてその傷口から“かいよう病”が感染蔓延して出荷できなくなってしまいます。収穫の時の苦労では“トゲ”です。レモンの枝には、ほら良く見て。鋭いトゲがあるでしょ。摘み取り作業していると時にこれが刺さったり、引っ掻いたりしてとても痛い。美味しいものはそう簡単には手に入らないってことかな」
青くてもライムではありません!!
“レモン色”というとほとんどの方が「黄色」をイメージしますが、実はレモンは他のかんきつ作物と同じように最初は「緑色」です。これは「グリーンレモン」と言います。この時の味は「さわやかな香りと味わい」。そして年が明けるとまろやかな酸味と香りの「イエローレモン」になります。ライムではありませんので間違わないようにしてください。
レモンはデリケート
収穫されたレモンはコンテナに入れられて専用車で倉庫に運ばれます。レモンはとてもデリケートでその扱いによってはキズやうちみがすぐついてしまうそうです。キズがつくとそこから傷んでしまうので、担当の方々は表皮を傷めないように優しく一つ一つ手で丁寧に検品・選果作業をした後に大事に箱詰めされていました。
レモンは広島の起爆剤
何度訪れても広島の気候は面白いと思います。それはまず瀬戸内海の島でこのように暖かい気候作物であるレモンが栽培されています。その気候ですから他の野菜産地とは少し違った時期に出荷できる農作物があります。一方、広島の県境には全く逆の気候の「スキー場」があります。それは農作物から考えれば「夏でも高温に弱い農作物が作ることができる」ということです。「瀬戸内海中心にして四季全ての農作物生産を組みたてられる」恵まれた地域です。レモンを起爆剤とした今後の展開に期待したいと思います。
Text by Tomio