熊本県八代市 農事組合法人 TAC(タック)やつしろ 代表理事 野田 成之さん

熊本県八代市  農事組合法人 TAC(タック)やつしろ 代表理事 野田 成之さん

熊本県八代市は人口13.2万人、面積680平方kmとなる熊本県第2の都市です。日本三急流の一つである球磨川の河口に位置する八代市は、流下した土砂が堆積して出来た平野に加え、藩政時代から行われてきた干拓事業により広大な干拓地があり、全国有数の農業地帯です。約500年前から続く畳表の原料であるイグサ栽培発祥の地としても知られています。

イグサ農家としてスタート

八代で代々農業を営む家に生まれた野田さん。20歳で就農し、その後25年間イグサ農家として農業を営んできました。「国産が主流だったイグサが、台湾、韓国、そして中国からの輸入が始まったことによって単価が下がりました。中国製のイグサ製品も徐々に品質の良いものが入ってくるようになってきて、将来への不安を常に感じていました」と野田さんは言います。

TACやつしろ 集荷場の風景

TACやつしろ 集荷場の風景

取材に応える野田さん

取材に応える野田さん

レタスへの転換

現実的に、イグサの売り上げが減ってきて、その売り上げをカバーするために、空豆、スイートコーンなどの栽培を始めましたが上手くいきません。そんな時に「アメリカでレタスの業務用比率が60%を超えた」という情報を知った野田さん、直感的に「これかな!」と思ったそうです。
八代ではレタスをやっている人が居なかったので、県北部の植木町まで、栽培方法を教わりに行ったそうです。

ビニールトンネルによるレタス栽培

ビニールトンネルによるレタス栽培

ビニールハウスによるレタス栽培

ビニールハウスによるレタス栽培

TACやつしろの設立

平成12年、野田さんは5人の仲間の農家さん達とイグサ栽培からレタス栽培へ転換します。その2年後には法人化して雇用型の大規模農場を目指すことにし、「農事組合法人TAC(タック)やつしろ」を設立しました。
設立資金も十分とは言えないなかで、「仲間とやる気があれば何でも出来る!」という一念でスタートしたそうです。

TACやつしろの看板

TACやつしろの看板

恩人の存在

レタス栽培に取り組むと決めたのはいいですが、なかなか上手に出来ない日々が続きました。そんな頃、縁あって、日本一のレタス産地である長野県のレタス栽培を指導している肥料会社の方と知り合いになる機会があったそうです。声を掛けても最初は相手にもしてくれなかったものの、「何とかレタス作りを指導してほしい!」との野田さんの熱意に押されて、定期的に指導に来てくれるようになったそうです。
「ひと月に2~3回も栽培指導に来てくれて、本当に熱心に指導してくれました。八代には、イグサやお米の専門家は居ましたが、レタスを指導してくれる専門家が居なかったんですよ」と野田さんは言います。

レタスの出来具合を確認する野田さん

レタスの出来具合を確認する野田さん

ビニールハウスでのレタス栽培

野田さんがビニールハウスでのレタス栽培にも取り組んでいます。まだまだトマト栽培の景気が良い時代だったので、近隣のトマト農家から「ハウスでレタスを作るのか?」と驚かれたそうです。
レタスを始めた頃は、土地を選べない立場にあったので、貸してもらえる畑は、ひと雨降るとぬかってしまって入れないような、水はけの悪い畑が多かったそうです。
雨が降ると、レタスを作るための畝も立てられない。その対策として、ビニールハウスを建て、畑の水分管理をコントロールする必要があったそうです。
「1~2月の厳寒期のレタスは、硬くて小さいものが多い。この時期に、ふんわりとした大きなレタスを作ってお客さまに提案し、喜んでいただけるものを作りたかったんですよ。」と野田さんは言います。

TACやつしろのトマト農場

TACやつしろのトマト農場

トマトの食味を確認

トマトの食味を確認

土づくりへのこだわり

野田さんが重視するのは「土のミネラルバランスを整える」ことです。土壌分析により、マグネシウム、カルシウム、カリウムの3要素のバランスを確認し、レタスが一番育ちやすい環境をいかに提供するかを大事にしています。
「堆肥や有機肥料が絶対に良いとは限りません。それは人間側の都合であって、レタスが必要としているかどうかは別問題です。」と野田さん。
野田さんは、安価な化学肥料ではなく、貝化石を毎年畑に入れます。コストはかかりますが、レタスの病気が出にくくなるそうです。
「環境を整えれば、レタスが自分でちゃんと育ちますよ。土への投資を惜しみなくやってきたおかげて、年々品質が良くなっています。人間の都合ではなく、レタスが一番良く育つ環境のための土づくりを行うことが大事です。」と野田さんは言います。

土壌分析のデータ

土壌分析のデータ

レタスの収穫風景

レタスの収穫風景

事業としての農業を目指す

TACやつしろの平均年齢35歳。レタス班、リーフレタス班、トマト班。の3班に分けていますが、そのうち、リーフレタスとトマトは、事業計画から運営まで、すべて若手の社員に独立経営させているそうです。
農業を志す若者がたくさん研修に来るが、「僕と思っている農業と違う…」として辞めていく人が大半だそうです。
「有機農業、スローライフに憧れて…というのも否定はしませんが、僕たちが目指すのは、事業として農業をやることです。きまった品質のものを、決まった量お届けする。いつ種を撒いて、いつどのくらい収穫するか?という時間軸で動く農業の世界は、憧れと現実は随分と違うと思います。」と野田さん。
「今の若い子たちは、やろうと思ったらすごい集中力ですよ。特に女性は強いですね。今後も若い子たちを中心に組織はもっとしっかりとしてくると思いますよ。」と野田さんは言います。

若いスタッフが多い、TACやつしろの収穫現場

若いスタッフが多い、TACやつしろの収穫現場

若手社員の岡さんとガッチリ握手

若手社員の岡さんとガッチリ握手

モスHATAKEミーティング熊本大会への参加

2012年11月に熊本で開催された「モスHATAKEミーティング熊本大会」には、野田さんも参加し、櫻田社長との意見交換会、熊本県内のモスの協力農家と交流するなどの機会を得て、とてもよい刺激になったそうです。
「モスさんに良い野菜を届けるという同じ目的でやっている生産者とは、価値観も共有できる部分が随分あります。他の農家さんとも、良いところ、悪いところ、をお互い情報を交換できて、本当によい機会になりましたね。」と野田さんは言います。
「よし!この中でモスの一番の農家になってやる!」という強い気持ちをその時持ちましたね。これからもこの気持ちを大事に、最高のレタスを皆さんにお届けしたいと思います。

モスHATAKEミーティング熊本大会の様子

モスHATAKEミーティング熊本大会の様子

モスで一番を目指します!

モスで一番を目指します!

TACやつしろのレタス、サニーレタスは、11~5月頃まで、関西、中京地区を中心にお店に納品されています。

Text by Sato